2011/03/03

おばあちゃんのお雛様



生まれ育った家には、
古い古いひな人形があった。


子供だったので、
ちょっと怖いな。ぐらいにしか思ってなかったけれど、
今思えばそれなりに歴史のある物だったと思う。




桃の節句で何が一番楽しいかというと、
やはりおひな様を出す時。


押し入れの奥から、大きな箱を出して来る。
開けると中には、小さな箱がたくさん。
その中に、和紙や、布に包まれた人形、
小さな小さなお嫁入り道具などが入っている。
それをひとつひとつ丁寧に出す。


とても小さなお茶道具などもあるので、
落として無くさないように、
母やおばあちゃんと膝を突き合わせて開けて行く。


途中、着物の柄についてあれこれ話したり、
表情が去年と違うなどと言ってみたり、
色黒の右近さん(左近さん?どちらか覚えていません)の顔色について、
飲み過ぎだなどと話したりして、
楽しい時間をゆっくり過ごす
女性はおしゃべりが好きなのだ。


ちいさなお道具を並べる時、
去年はこうだった、それは逆じゃないかと言いながら、
置いていくのも楽しい。
苦労して並べたら、手が当たってひっくり返したりすると、
3人で大笑いしたものだ。
おばあちゃんと母と私は、大の仲良しだったので。


小さな頃は、
自分が花嫁さんを開封したくてわくわくしながら出していたら、
首がすっと抜けてしまい、大変驚いたことがある。
幼かったので、十二単の中はちゃんと身体がある物だと思っていた。
それが首が抜けて、白い首の先は少し尖っていたので、
なんだか怖かった記憶がある。


でも、次の年からはすっかりいい気になって、
おもしろがってわざと抜いたり、首を後ろに向けたり、
お内裏様の首を花嫁さんの十二単にさしてみたりして、
ふざけたものですが。


そして
少し怖いと思っていたお雛様達も、
飾り終わったぼんぼりに火を灯すと、
灯りに照らされて、とても綺麗に見えた。
私は頬杖をついて美しいお雛様、りりしいお内裏様や、
三人官女さんのそれぞれ少しずつ違う顔を、
うっとりしながら暫くぼおっと、ながめたものだ。
花嫁さんに自分を投影させながら。








ちなみに、お雛様のその後。


事情が有って、親戚の叔母が
おじいちゃんおばあちゃんの家で暮らしていた。
おばあちゃんが亡くなった後、
私たちの知らない間に、ひな人形は捨ててしまったとの事。
「古くてきたなかったから、すてたわよ。」
と言われて、その時は
「おばあちゃんの物なのに、汚いなんて。それに、捨てるなら私が欲しかった。
 結婚したら持って行くとおばあちゃんと約束していたのに。」
と思いましたが、
極度に綺麗好きで几帳面な叔母は、
不要な物はすぐに捨てるし、
それまで家の管理もすすんでしてくれていて、
家はいつもぴかぴか。
少々神経症的なところもありましたが、
悪気はないのです。


それに、お雛様は私の心に楽しい思い出としてくっきりと残っているし、
私が今もしそれを持っていても、
「インテリアと合わないかな?」などと言って、
しまい込み、飾らないかもしれない。


お雛様はおばあちゃんが天国に持って行ったという事にしよう。
今頃おばあちゃんは、
ぼんぼりに火を灯し、
ほおづえをついて目を輝かせながら、お雛様をながめている。

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