2011/01/14

輝く記憶

ピンク、オレンジ、ブルー、パープル。
さまざまな色の洪水のうずまく
宇宙の中心に向かって吸い込まれていく。
幸福感につつまれて流されるがままに流されていくと、
不意に見なれた、なつかしい場所に自分が立っているのを、
私が見ている。


私が生まれ育った家の庭。
テニスコート一面ていどの芝生の中心に、
おばあちゃんが小さくかがんで草取りをしている。
みなれた光景。
燃えるようなグリーンの芝生に、
おばあちゃんの真っ白なかっぽうぎが
目を射るようにまぶしい。


私をちらっと見ておばあちゃんは、
「ももちゃんお帰り。おやつ食べる?」
と甘い言い方でさそう。
「うん!」とはずむように私はおばあちゃんにかけ寄る。


なつかしい庭の水道でおばあちゃんと手を洗い、
暗くて涼しい家に上がる。
そのままもっと暗い台所に行って
ひんやりとした空気を吸い込む。
日差しの中から来たので、
目が慣れずなお暗い清潔な台所。


おばあちゃんは冷蔵庫から、
私の顔ほどもある大きな梨を出して来て、
私の小さな手に乗せる。
「おっきい!おもい!」と感激する私から梨をとり、
なれた手つきで皮をむくおばあちゃんのしわしわの手。


ガラスの皿に切った梨を乗せて
窓を開け放したリビングに戻り、
おばあちゃんと2人正座して甘い梨を食べる。
「いただきま〜す」
口の中いっぱいに、ひんやりとした梨の水分が広がり、
「おいしい〜!」と感激する私に、
不意におばあちゃんは、
優しい、祈るような、悲しいような眼差しを向けて言った。


ももちゃん、おかえり
もうこっちにきちゃったんだねえ
いろいろがんばったんだねごくろうさまでしたねえ


それが私が死ぬ前に見た映像でした。






解説:実話と夢で見た事を混ぜたお話です。
   人が亡くなる前に何を見るのかに興味があります。
   人が精一杯生きて来て、最後に見るものって、
   どんなものでしょう?
   それは亡くなる人だけが見るものなので、
   どんなものかは私たちにはわかりません。

0 件のコメント:

コメントを投稿