2011/02/03

受け入れるという事



以前目の見えないお客様を接客した時のお話。


ある日の午後、
店に入るなり、入り口付近で立ち尽くし
「ちょっと」と呼ぶお客様。


あわてて側まで行くと
しゃきっとしたおじいちゃんが立っている。


「私は目が見えんもんだからちょっと座らせてくれんか」


私はそのおじいちゃんのたたずまいから、
あ、そっか。と思い、
とっさにおじいちゃんと手をつないだ。


でもこれが素人考え。
片手をつないだだけでは、
見えない人にとっては進む方向が不安定。
ましてやうちは、陶器屋。
商品にあたれば落として割れる。
おじいちゃんもそれがわかっているから、
あえて介添えをたのんだのだろう。


それが文字通り手に取るようにわかったので、
思い切っておじいちゃんの前に向かい合わせに立ち、
両手を取って引いた。
傍目から見るとフォークダンスをするような格好で、
事情のわからない他のスタッフが
「なにしてる?」とサインを出して来るのを
背中で感じる。


椅子のところまで来ると、
私はおじいちゃんの向きを変えるように、
軽く身体を触って誘導。
おじいちゃんも椅子に触れながらひとまず座った。


そして私に青磁の急須を探しに来たと伝える。
心当たりの品物を店内から持って来て、
おじいちゃんの前に置くと、
手探りで見立てる。


「見えない私が色にこだわるのはおかしなことじゃけど、
 美しいものがすきでなあ」


その言葉を聞いたとき、
生まれつき見えないのではなく、
ある時から光を失ったのではないか、それも
「青磁が美しく好きだ」と言う所を見ると、
割と近年まで見えていたのでは?と思った。


また無地の青磁を所望されるのは、
柄物を、目で見ずに口頭でやりとりする
煩わしさ、もどかしさもあるのかな?
とよけいな勘ぐりも働く。


その後器と関係ないお話などもしながら、
お茶をお出ししたりして、
1時間程過ごして、
青磁の急須を買ってくださった。


タクシーが来て
また両手をとって行こうとすると、
おもむろに言った。


「あなたは美しいひとですな」


とっさになんと答えていいのかわからず、
照れもあって、
「いいえ、とんでもないです!」とあわてながら、
またフォークダンスのように手を引いていたので、
今度は事情のわかっているスタッフも、
私の背中に
「やけに楽しそうだね」とサインを送って来る。


店の外に出ると、
「いや、もうここまでで、後は自分で行けますから。ありがと。」
と杖で探りながらタクシーの方へと歩いて行く。
運転手さんが事情のわかった方のようで、
さっとおじいちゃんを迎えに来る。




人生の途中で何も見えなくなる。
地獄のような苦しみを、
乗り越えたのか乗り越えつつあるのか、
冗談を言ったり、女性を褒めたり、
明るく静かでひょうひょうとしたおじいちゃん。


人から何かしてもらう事を受け入れた、
自然なところが、素敵でした。

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