2011/02/26

終点Cと始点Aが一致したループ。



ユリは想像力ゆたか。


カラダはここにいても、
ココロはどこに行っているかわからない人。


どうしていつもそうなのか、
ユリにも理由はわからない。






ユリの実生活はいたっておとなしい。
表面だけ見れば単調な毎日。


毎朝こぎれいに身なりを整え、
会社に行って、業務を懸命にこなす。
帰りスーパーマーケットでつつましく買物をし、
家に帰り着くと雑用はさっと済ませ、
ライフワークを楽しんでから、
眠りにつく。
大体そんな毎日。
ほらね、単純です。


そんな単調な生活をおくりつつも、
ユリのアタマの中には、
色鮮やかな別の生活があり、
香りも豊かに、いろいろな場所へと自由に飛んで行く。




上品な色合いの陰影が美しい砂漠をサソリと一緒にさまよう。
サソリはさまよってはいない、ただ黙ってユリについて来る。
見張りなのか、仲間なのか。
熱く乾いた風に、白い麻の服がさらりと心地よく
汗ひとつかくことはない。


波音が耳元で聞こえるように砂浜に仰向けに寝転び波を背中に感じる波打ち際。
照りつける太陽に目の自由を奪われてはいるが、
目を閉じて感じる波は地球のゆりかご。
不意に陰って目を開けると、視界がぼやけて良く見えないけれど、
彼が私を優しく見つめているのがわかる。
私は額に手の甲をあて、少しだけ歯を見せて笑う。




映画のような美しい白い帆船で
太平洋の真ん中に浮かんでワインを飲む。
最新型のヨットではない。
クラシックなタイプ。
チーク材と生成りの帆布、真鍮の金具。
ワインはシャンパンではなく重い赤。
デッキに出した革張りの大きなカウチに深く埋もれて、
ふと見ると、
別のカウチに甘い寝顔の彼。
美しいまつげの陰影を、
どうして神様は作ったの?




ヨーロッパの古いお城の暗くて重厚な広間。
城主らしきいくつかの自画像が、
部屋のどこに行ってもこちらを見て品定めして来る。
大きなテーブルの端の椅子に、
優雅な帽子を目深にかぶり背筋を伸ばして座り、
執事にお茶を運んでもらう。
物音ひとつたてない執事の横顔をじっと見る。
彼は私の視線に気付きそっと目を伏せるも、
私を見る事はない。




アールヌーボー調のホテルの一室で、
フィッシュネットストッキングの足を組んで座り、
革張りのソファーにだらしなく沈み込む。
足下に一匹の黒猫。
手を差し伸べると音も立てずに登って来て、
甘えて来る。
くすぐったさに声を立てて笑い、身をよじる赤い口紅。




美しい南の海底で自由に泳ぎ回る。
熱帯魚と戯れたり、
沈んだ海賊船の中にダイヤモンドを見つけたり、
ナポレオンフィッシュと見つめ合ったりキスしたりする。
遠くを色とりどりの美しい人魚達が泳いでいて、
私のうわさ話をしているのがわかる。
自分は人なのか魚なのか次第に区別がつかなくなる。




ドバイの光り輝く高層ビルの屋上。
階下のパーティーの喧噪がばかばかしくなり、屋上へ。
助走をつけて、なんの躊躇もなく中空に飛びこむ。
スカイダイビングの装備で。
そのまま風をきって飛び、近隣のプライベートビーチに降り立つ。




古都の古いお寺の大きな高い高い屋根の上に座り、月を見上げる。
あたたかい風。線香の香り。
ヘッドホンで大音量でジャズを聴く。
その自分を境内から見上げると、
月に黒いシルエット。
横で蝶が飛んでいるのも、シルエットで見えるのが美しい。




パリの美術館で美術鑑賞。
ある絵画を見て足を止める。
引き込まれていって、たまらなく欲しくなる。
この絵はここに居たくない、私の部屋がふさわしい居場所だ。
次の瞬間絵画を盗み、早足に外に出る。
後ろから複数の足音。
そのままパリの町中を
愛車Audi R8 quattroでカーチェイス。
ふとバックミラーを見ると、
追って来るのはおもちゃの兵隊さん。




気の遠くなるような雪山の頂点。
テニスコート一面程のスペース。
視界には他の雪山と空と下方に雲のみ。
神の見る風景。
風が少し強くなって来た。
おばあちゃんのおにぎりを1人ほおばり、
おばあちゃんを思い出しては微笑む。






遠くに住むあの人。
静かで穏やかな気配。
努力家で、努力をちらつかせない。
明るい所も有り、暗い部分もある。
冷めている時、難解な時、甘い時。
いろいろな顔を持っている。
多くの役割、多くの肩書き。
朝と夜の顔、公の顔、個人的な顔。
私の前では一個人。
いろいろな才能を持っているのに、謙虚。
爪を隠す。
頭がいい。
時には自分を責める。
時に少年。
優しく、真っすぐにこちらを見て、
受け入れてくれる、甘えてくれる。
静かにギターを弾いてくれる。


そんな彼は、
遠く離れていて、
逢った事もなく、
逢えない運命。


そんな人に、ユリは恋をした。




A:南に位置するユリの住まいと、
C:1000キロ東のユリの心の住まい。


B:逢えないその人はその中間地点に居る。


ある日こんな事があった。


その人が仕事で東の方へ移動した時の事。
ABCと並ぶ線上を
その人はBからCへと移動した訳だから、
当然ユリの居るAからは遠く離れた事になる。
1000キロ。


ところがCはユリの心の故郷であり、居場所であり、
テリトリーである。
AからCが1000キロ離れていようとも、
ユリの想像力にかかれば、
それは終点Cと始点Aが一致したループになる。


ユリは彼の存在を今までになく近くに感じる。
ユリの世界では数学の数式は通用しないのだ。













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