2011/04/19

この天使をかばわなければならない



天使のような人がいる。




決して怒らない。


笑顔を絶やさない。


素直、従順。


優しい。


日だまりのような静かな明るさ。


口答えしない。


不満を出さない。


機嫌を損ねる事が無い。


いつも同じ精神状態。


かなりの低姿勢。


低すぎる程腰が低い。


しかし背が高い。


おとなしい。


人に気を遣う。


謙虚。


決してNOと言わない。






そんな類い稀なる性格の彼だけれど、


なにしろ仕事が出来ない。


語弊がある。


うちの会社での仕事がなかなか出来ないのであって、


他にもっと彼に向いた仕事はあるだろう。


しかし、とにかくうちでは、


時間がかかり過ぎる。


必要の無い所に執拗に丁寧。


スローモーション。


今までの勤め先で何をやって来たのか、


二十歳の新入社員以上に、


社会的常識が欠如している部分もある。






そんな彼に私は暖かい親のような気持ちを抱いて、


育てるつもりを持っているが、


周りはそうはいかない。


毎日彼の一挙手一投足に、


苛立ちを募らせ、


ことあるごとに厳しく指摘する。


指導ではない、苛立ちだ。


そうして行くうちに、


彼も日に日に萎縮して、


笑顔が少なくなって来たように思う。


私もかばえる所は何とかかばう。


しかし、それに追いつかないほど、


周りの苛立ちが激しい。


温和な年配女性の優しいスタッフでさえ、


時々声を荒げている。


感情はさておいて、


育てなければならないのだけれど。


彼の何かが皆を苛立たせる。


それは私にとっては、


彼の良い所なのだけれど。


良い性格と、仕事に良い性格とは、


別物なのか。






お客様は、彼のつたない接客でも、


人柄からか、好いてくれる人は多い。


よくお客様と笑顔で親密に、


小さな声で笑い合ったりしている。


お客様は安心するのだろう。


商品知識も乏しく、


うまく営業トークも出来ない彼だけれど、


飾らない彼のたどたどしい言葉に、


その人柄をかいま見るのだろう。


実務的なことは、なかなか上手く出来ないけれど、


彼にたくさんある、いいところは、


凡人にはとてもまね出来ない。


一度も怒ったり機嫌を損ねたりせず、


不満を表情にも出さないなど、


ふつうなかなか出来る事ではない。


あれだけちくちくと、


いじめのような指導を受けても、


素直に聞く。






その様子はまるで、


無条件で親を必死に慕う、少年のようだ。


背景にとてつもない何かがあるのかわからない。


どうしたらその天使のような性格が出来上がるのか。


理不尽な扱いを受けて、


どこまでついて来れるのか。


もちろん彼の事、「辞めてやる」などと言う気配もない。






だからこそ、


逃げないからこそ、


もっと大事にしないといけない。


わたしが、もっともっと、


強くかばって育てないと、


彼の類い稀なる静かな輝きはいつか、


そう遅くない時期に失われてしまうだろう。






心は強くても、


力の弱いこの天使をかばうのに、


もっとこの天使自身が強くなってくれれば、


と思う事もあったけれど、


そうならないところに、


この天使のすごさがある。


強めの自己主張をし出したら、


その時から彼は、


天使ではなく、


普通の男になってしまったと言う事になるからだ。


  
  

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